素直に・・・・・・。

素直に・・・・・・。

 

 
 
「帰って!!」
 
私は突き放すように叫んだ。
叫んだ相手は私にこう言う。
 
「冥、私は君の事が心配で言っているのに…………………………うぐっ!」
 
気づいたら鞭を振っていた。
鞭を振った彼の頬が少しずつ紅く染まっていった。
私はまた彼を傷つけてしまった。
彼が帰った後に蘇る後悔、しかしもう遅い事だった。
怜待が私の事を思ってくれるのは嬉しいはずなのに私は彼を傷つけてしまう。
それはきっと子供扱いされたと思ったからだろう。
確かにあの仕事には不安があったが私にはそれと同じぐらいやれる自信もあったはずだ。
子供扱いされた怒りより私の心には後悔が大きく残っていた。
 
私には彼を傷つける事しかできないようだ。
心配されても突き放し、気に入らないと鞭を振る。
そんな理不尽な女を誰が好きになれるのだろうか。
私の眼には涙が溢れて来る。
不覚にも昔一度怜待に見られてしまったがもう誰にもこの涙は見せてはいけない。
私は涙を拭き何時もの自分に戻る。
私のパパが完璧な人間であった様に私も完璧でなくてはならない。
本当の気持ちを振り切って私は何時もの天才検事狩魔 冥へと戻った。
 
 
 
「庶民の行く店も悪くはないな、麺の固さから出汁の取り方まで完璧にできている」
 
「だろだろ、だったらおごってくれよな!!」
 
今発言したのは矢張政志。
一応小学校時代の旧友だ。
私はラーメン屋の屋台にいた、屋台の名前はやたぶきやと言うそうだ。
ここに来る事になった経緯は昨日の事で少し悩んでいた私の執務室に矢張が急に入ってきて、
飯をおごってくれと叫び出した事がはじまりだった。
どうやら女性に金を使い過ぎたせいでお金がなくなってしまったそうだ。
今手持ちの金でやりくりするとしたら次バイトする日までもやししか食べれない程金がないらしい。
糸鋸刑事ですら素麺だと言うのに………………………………………。
仕方がないので庶民的な安いお店でおごってやる事にしたわけだ。
 
しかし矢張と一緒にいても私の頭には昨日の事が離れなかった。
 
『帰って!!』
 
この言葉と微かに残る頬の痛みが私から消える事はなかった。
 
「それでよー美野里に振られてさーその時出会って天使だと思っていた利佳子は金使いが荒くて散々俺の金を使ったあげくフランスに旅立っちまったんだよ」
 
しかし矢張の言葉は私には上の空だった。
こう言う時だけ何故か矢張は鋭く、私にこう質問してきた。
 
「御剣おまえ何か元気がねぇぞ、何時もそこまで口数多くないけど今日は何時も以上に少ないぜ
 何かあったのか?」
 
一応矢張は振られたり捨てられたり女性問題では悲しい運命を辿っているが、
私よりはそう言う問題の解決策を知っているかもしれない。
とにかく私は矢張に全てを話す事にした。
と言っても良い答えを期待しているわけではなかったが矢張は思いがけない事を話し始めた。
 
「なるほど!その仕事やらが何かわかんねーけど、おまえは彼女をこれまで通り支えてやるべきだぜ。
 彼女はさ本当は不安で支えてほしいんだろうけどさ、プライドがそれを許さないんだよ
 だからおまえは少し強引になっていいんじゃねーか、昨日みたいに鞭で叩かれたぐらいで帰るんじゃなくてさ」
 
矢張にしては上出来すぎるアドバイスだった。
確かに彼女は私がいなければ孤独だろう。
私の師匠である冥の父親は今事情があり冥と会える状況ではないし。
私以外に誰が冥の事を理解しているというのだ。
やはりもう一度会うしかない。
私はそう心に決めた、その時私の固い決意の横で……………………………………………。
 
「御剣~、もう一杯おかわりしていいかやっぱりさー夜もやしとなるとお腹空くし!
 いいよな食い溜めして!」
 
「勝手にしたまえ!」
 
こうして賑やかな昼食を終えた。
こう言うのもたまには良い物だと思えた。
機会があれば今度は成歩堂も誘ってみるか。
少しだけそんな事も考えながら、私は自分の執務室に戻った。
 
 
 
コンコンと音を立て私は冥の執務室をノックする。
冥がすぐに扉を開ける。
 
「怜待また来たのね」
 
と私に呆れた声で言う。
しかし、冥の表情は少しほっとしている表情だった。
声や行動を見ているだけでは彼女の本当の心情は分からない。
些細な表情変化のみが信じられるものだった。
 
「冥あの件に関してだが本当に君が担当するので良いのだな、
 正直危険な仕事だ、私が担当したいところだが最終的な判断は君に任せる」
 
「だから大丈夫だって言ってるじゃない、過保護過ぎるのよ怜待は!」
 
と相変わらずの口調で話す。
すると続けてこう話す。
 
「パパだってそう!怜待だってそう!私を何時も子供扱いする!!
 私だってあんな仕事すぐこなせるわ!子供扱いしないで!」
 
「子供扱いしているわけではない、ただ純粋に君が心配なだけだ」
 
その言葉に冥は少し驚きの表情を浮かべる。
冥はそのまま押し黙ってしまう。
そのまま私は話を続ける。
 
「私は君を検事として最高のパートナーだと思っている。
 その君がただただ心配なだけなのだ、もしあの事件を担当するにしても
 手伝って欲しい所があれば手伝う。
 子供扱いでもない、冥ただ君が純粋に心配で仕方ないのだよ
 だから何時も一人で抱え込む事をやめて助けを求めたい時は助けを求めて欲しい
 
 
____________________________それだけが私の願いだ。」
 
 
「怜待……………………………………。」
 
私はその言葉を聞いて驚いた。
怜待は本気で私を心配してくれている。
子供扱いでも同情でもないただ私を純粋に心配してくれている。
それに気づいた時私はお礼の気持ちを話したかった、だけど…………………………………。
 
「何時から貴方と私がパートナーになったのかしら
悪いけど帰ってくれる?」
 
また冷たく言い放ってしまった。
私は自分への怒りで一杯になる。
考えてみると怜待以外に私を本気で心配してくれる人はいない。
そうなると怜待がいなくなったら私は…………………………。
とにかく昨日と同じ結果は駄目だ。
私は勇気を振り絞ってこう言った。
 
「………………………ありがとう………………………………」
 
本当に今にも消えかかりそうな声だったので怜待に伝わったか不安だった。
今の言葉が届かなかったとしても何時かは怜待の前で素直な自分になろうと思った。
今は決心がつかないし、できなくてイライラして彼を傷つけるかもしれない。
最後に振り向いて怜待の顔を見る。
堂々としていて頼れる雰囲気が出ている。
考えてみると本当に頼れる相手ができたのは初めてだった。
私の事をパートナーとして認識してくれる怜待、
彼となら何時か二人で肩を並べて同じ道を歩いていけるかもしれない。
私は重い扉をそのまま閉めた。
 
 
 
 
 
 
私は最後の彼女の言葉を聞き逃さなかった。
空耳でもなく彼女は最後私にお礼の気持ちを述べてくれた。
私はその声を忘れる事はないだろう。
何故ならば冥が初めて私に素直な気持ちを伝えてくれたのだ。
彼女の心が私に完全に開くまでは相当時間がかかるであろうが、
私は彼女を支え続ける。
何時かは肩を並べ2人で共に同じ道を歩いていけたらと思った。
 
 
 
おわり