太陽(2)

太陽(2)

5月が過ぎ、6月も過ぎて、
今日は7月15日、初夏の日差しに少しだけうんざりしていた今日この頃。
考えてみると、橙沢君と付き合ってから2ヶ月の時が流れていた。
彼とは一緒に登校する事は勿論。
日曜日や土曜日は彼と遊ぶ事も多くなった。
朝、神社の前での待ち合わせは習慣になっていた。
その日の帰り道、暑さで頭がぼーっとしていると。

「藍聞いてる?おーい!」

と声が聞こえたので我に返った。
今私と一緒にいる黒髪で少しショートの子は、
緑川 夕実と言う。
夕実は前のクラスから友人で、交通事故から復帰した私を真っ先に心配してくれた人だった。
今のクラスも同じで、クラスの友人の中では一番仲が良い。

「あっ........ごめん!暑さで完全に頭がぼーっとしてたわ」

「もう.......藍はしっかりしてる様で、隙があるんだから!
 そんなぼーっとしていると、また交通事故に遭っちゃうよ!」

私はそれを聞いて急に背筋を伸ばす、2度もあんな死にそうな体験をするのは嫌だった。
もう思い出すだけで寒気がする事もなく、
交通事故の遭った通りに行くのは少しだけ気が引けるが、
横断歩道を渡るだけで緊張することもなくなった。
私は分かれ道で夕実と別れて家を目指した。

それからほんの数日たった今日。
暑さは日に日に増していた。
朝はそこまで暑くはないが、昼には温度が急に上がり頭は更にぼーっとするに違いない。
橙沢君との待ち合わせ場所が見えた。
何時もどおり大きな樹が力強く聳え立っている。
私はその前で立ち尽くし、力強く聳えたつ樹を見ていた。
この暑い中この樹は弱音を吐かずただその場で堂々と立っている。
それを見ていると私も今日がんばろうと思えるようになった。
そんな事を思っていると、橙沢君が走って現れた。

「ごめん!春川遅れた!うん?」

何時もならば、
橙沢君が大体神社には先に来ているのだが今日は珍しく私のほうが早かった。
うん?と言う言葉の方が私には気になった。

「今頃で悪いんだけど、恋人同士で苗字で呼び合うのがおかしいと思ってさ。
 藍って呼んで良いか?」

好きな人に改めて名前で呼ばれると少しだけ照れる。
私はこくりと頷いた。

「じゃあ私は陽太郎で良いかな?」

お互い呼び捨てで呼び合う、少しだけ恋人らしくなった。
恋人としてまた一歩歩きだせて、順調だった。

横断歩道まで来たとき私は陽太郎と話をしながら進んだ。
その時私はふとある事を考えた。
この光景を誰かが見たらその誰かには私たちの事がどう写るのだろう。
ただの友達に写るのか、恋人として写るのかそう考えていた時だった。

「藍!おはよう!」

私と陽太郎は振り返る。
そこには何時もは部活で早く学校に来ているはずの夕実の姿があった。
私は少し驚くが、すぐに平静に戻った。

「あれ、隣にいる人誰?」

その問いかけに対して、陽太郎は

「俺は橙沢 陽太郎」

夕実は暫く黙った。
その間が私にとっては少しじれったく、何を考えているのか分からなかった。
すると、何時もの明るさで、

「私今日少し急ぐから、藍教室でね♪」

そう言って走り去ってしまった。
どうしたのだろうか、私が疑問を持っていると、

「そろそろ学校に着くから、着く時まで一緒だと関係を怪しまれるから何時もどおり藍は先に行っててくれ」

何時の間にか何時もの別れる場所に来てしまっていた。
私は陽太郎に元気良く手を振り、そのまま前に向かって歩いた。
相変わらずの暑い日々だが、
葉は日光の光のおかげかエメラルドの様に輝き、
少しだけ心が癒された。
そんな夏の日だった。

6時間目が終了し、放課後の時間。

「藍一緒に帰ろう♪」

下校は何時もどおり、夕実と一緒に帰った。
今日も少しだけ暑くて頭がボーっとしていた。
その時..............................。

「ねぇ藍ってさ、朝会った橙沢って人と付き合ってるの?」

一瞬で頭の気だるさが吹っ飛んだ。
私は返答に焦る。

「今日の朝だって、もし付き合ってたとしたら私お邪魔虫だから去ったんだけど実際のとこどうなの付き合ってるの?」

その質問に私は少しだけ黙って考えた。
夕実は一番仲の良い友人で、優しく明るい人だ。
彼女に陽太郎と付き合っていることを話しても、
きっと広めたりしないはずだ。
私は夕実を信じることにし、力強く頷いた。

「そうかぁ、まぁあの人カッコいいもんね。
 後ろから見てて二人がが楽しく話している様子をみたら、二人は付き合ってるのかなって思ってさ。
 でも少しだけ悲しいな、私と話しているときに藍はあんなに輝いている笑顔を見せたことがなかったから,,,,,,,,,,」

夕実は少しだけ寂しそうな表情をする。
しかしそれを振り切り何時もの明るさで私に接した。

「じゃあ分かれ道だし、また火曜ね♪」

と言って元気良く去っていった。
今日は金曜日、明日から海の日のおかげで3連休だった。
私はそのまま家まで一人で歩いていった。
その時、私のバッグに入っていた携帯が鳴り出した。
今流行のJPOPが静かだったこの空間に鳴り響く。
私は携帯のメールを確認する。
陽太郎からだった。

今日大事な話がある。
前みたいに5時に公園に来てくれ。

と短い文章で的確に用件が書いてあった。
何だろう大事な話って。
前は交通事故を起こしたのは自分の父親であったと言う話だったが。
今回は何があるのだろうか。
今の私にはそれが何を意味するのか分からないまま、
翌日を迎えた。

前のときに座ったベンチ。
私にとっては思い出のベンチだった。
どんな季節でもこのベンチから見る光景は素晴らしいものなのだろう。
私は目の前の濃く緑色に茂った葉を見てそう思った。
その時私の横に陽太郎が現れあの時と同じように座った。
私は少し陽太郎と話して、陽太郎は用件を話した。

「単刀直入に言って良いかな


 _______________別れよう」


この言葉を聴いた時私の全てが崩壊した様な気がした。
どうして、何故その問いかけすら口から出ず、喉の途中で遮られる。
言葉も出ない代わりに、私の眼には大粒の涙が溢れ出そうとしていた。

「藍の事を嫌いになったわけじゃない、更に好きな人ができたわけでもない。
 俺にはもう時間がないんだよ」

私の事を嫌いになったわけではない。
私は涙をこらえた。
それよりも私は陽太郎の時間がないと言う言葉が気になった。

「来週中に引っ越す、火曜日から学校には来ない、
 丁度来週中に今学期も終わるし、
 それに俺は田舎に帰って父が継がなかった、俺お爺さんの仕事を継がなくてはならない
 すまない、もう俺にはおまえと過ごす時間がない。」

もう過ごす時間がない。
陽太郎と過ごす時間はもう僅かだった事を私は知った。
涙はこらえきれずポロポロと落ちていく。
私はその場にいる事ができず走り去ってしまった。

家に帰り私はベッドに入り泣いた。
さっき少し毀れたはずだったが、私の悲しみは深く、
わめく事はしなかったが静かに長く泣いた。
もう取り戻せない、時間と言う物に私はなす術がなかった。



俺は公園で立ち尽くしていた。
目の前で泣いていた彼女に俺は何もしてあげる事ができず、
ただ呆然としていた。
俺は自分への怒りで、その辺に落ちていた石ころを蹴る。
それは近くの樹に命中しそのまま落下した。
石ころを蹴った時俺はあることに気づいた。
そもそも俺は藍の事を本気で愛していたのか?
所詮は父のした事への償いであの子に近づいただけで。
彼女への気持ちは愛情より同情に近いものだったのではなかったのか?
そう考えるとこれから時間があったとしても何時かは藍との関係は終わってしまうだろう。
俺はそう心の中で思い、自分を正当化した。



次の日、私は泣きつかれた目を擦った。
私は少しだけ冷静になっていた。
とにかくあのままじゃ駄目だ。
走り去って逃げたままにしておくなんて無責任過ぎる。
それに陽太郎とは何があっても
私は携帯を取り出し、陽太郎にメールを送った。



朝からイケてるロックの音が流れてくる。
俺は机の上の携帯を取って、メールを見た。

 明日だけは公園で私と過ごしてくれるかな?
 嫌なら良いけどこのまま別れるのは、悲しすぎるから
 返事待ってるよ

俺はそのメールを見て少しだけ迷った。
だがしかしこのまま別れるのは悲しすぎると思ったので、
俺は誘いに乗る事にした。


翌日俺は公園のベンチで待っていた。
何時通り先に藍がいた。

「おはよう、橙沢君」

何時の間にか呼び方が橙沢君に戻っていた。
俺はその事に少しだけ寂しくなったがすぐに吹っ切る。
夕方まで藍と過ごした。
公園の外にも行き、昼を食べたり買い物をしてみたりした。

いよいよ夕方藍ともうすぐでお別れだった。
何時の間にかあの時の神社の神木まで来ていた。
こここそが全てが始まった場所だった。
藍はすぐに神木に寄り、手を神木に当てた。
その姿は初めて藍に会った時と同じだった。
そして俺のほうを向いてにっこりと笑った。
その時俺は忘れかけていた感情を思い出した。
藍と一緒にいたのは同情ではなく愛情だったのだと、
初めて会った場所で同じ仕草をしてくれたから思い出せた。

そしてにっこりと笑った顔は今にでも壊れそうな笑顔だった。
俺は気持ちに気づいて急に寂しくなったが、藍はずっと寂しい思いでこの連休を過ごしていたのだ。
今俺がデコピンでもしたら壊れてしまうかもしれない、
俺は見ていられなくなった、しかし何もしなければあの時と同じ
何時も通りの俺の行動力があれば。
俺はそっと藍に近づき、藍を抱きしめた。

「............馬鹿。
そんな事されたら、別れるに別れられないじゃない」

「俺はやっぱり藍が好きなんだ、
 

____________________________もっと藍といたいんだ!」


その時再び二人の心は一つになった。

「陽太郎、私も貴方ともっと一緒にいたい」

何時の間にか私は陽太郎と呼び捨てに戻っていた。
私は自分から陽太郎に再び抱きつき、泣いてしまった。
もう一昨日出し切ったはずなのにまだまだ涙は出てくる。
すると陽太郎は。

「俺お爺さんには悪いけど、田舎の仕事を継ぐ気はないって言ってくるよ。
 多分家族は大反対するけどそれを押し切って俺は何時か会社に勤めて、
 藍と幸せな家庭を築きたいと思っている、
 だからそれまで待っててくれないか?」



「うん、待ってる」

私は涙を止めそのまま陽太郎に抱きしめてもらった。
陽太郎は太陽の様に暖かく何よりも物凄く落ち着いた、神社の神木以上に落ち着く場所なんてないと思っていたが
それはどうやら間違いだったみたいだ。
しばらく陽太郎には会えないが、私は戻ってくる事を信じている。
今日だってもう太陽は沈んでしまうけど、
明日の朝には必ず太陽が現れる。
たとえ雲に遮られても、次の日、また次の日になれば絶対に戻ってくる。
だから夜が明けるまで私は陽太郎を待ち続ける。



______________________陽太郎は私だけの太陽だから






終わり