子供

 

子供
 
 
 
「冥、どうしたのだ!?」
 
私は驚きの余り大きな声を出す。
目の前の冥は何故か10年程幼くなってしまった姿になっていたのだ。
今日冥が日本に来ていると聞き、検事局の冥の執務室に辿り着くとすでにその姿になっていた。
 
「私には分からないわ、起きたらこの姿だったの」
 
恐らく年齢的には9歳ぐらいの姿。
9歳と言えば小学3年生ぐらいの姿だ。
19歳の冥が何故9歳に逆戻りしたのか不思議だった。
それよりもその姿では………………………………………。
 
「どうするのだ、その姿ではこれから生活していくにも大変だぞ」
 
そう言うと冥はこう言う。
 
「貴方には関係ない事だわ」
 
姿は子供なのに言葉は普通の冥と同じだった。
 
「そういう訳にもいかない、事情を知らない誰かに君の姿を見られたら面倒になる事は間違いない
 とにかく様子を見て病院行くなりしなければならないしこの姿ならば保護者役は必要だろう」
 
すると冥は少し考え込み、仕方ないと言わんばかりの顔を見せる。
とにかく姿を見られると不味いので私の執務室に案内した。
私は冥をソファに座らせ私はデスクで仕事を続ける。
とにかく原因が分からない詳しく彼女に事情を聞いた。
 
「冥一体如何いう事情があったのだ?」
 
冥は少し黙ってこう答える。
 
「夜退屈な書類の仕事も終わって寝て起きた時、
 何か服が大きくなっていると思って鏡を見たらこの姿だったの]
 
「しかし君は執務室にいた、それは何故だ」
 
「いくら姿が子供と言えども、頭は退化していないし
 仕事をしに行きたかったの、ただこの姿だと入れないからちょっとある方法を使ってね」
 
 ある方法とは何なのだろうか?
と言うより簡単に部外者に入られる設備で検事局は大丈夫なのだろうか。
私は検事局の未来を少しだけ心配した。
しかしそれを聞くと性格は元のままのはずだ、鞭を振られるに決まっている。
 
「手元に昔検事になる前に使っていた服があって助かったわ。
   鞭もこの通り。」
 
予想通り鞭も昔のバージョンに戻っていた。
誰かを叩く気は満々の様だ。
うん?私は時計を見て気づいた。
 
「冥私は次の件の現場を見に行く、私の執務室には誰にも入れない様頼んでおくから
 君は執務室で待機していてくれたまえ、帰ってきたら私の車で君を家に送ろう」
 
と言い私は去った。
冥が部屋でおとなしく待っているか心配だが、
私としても外せない用事だ行くしかなかった。
私は少しだけ重い扉を閉め、
現場に向かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
部屋に残った私は執務室の静けさから急に寂しくなり、
気持ちが不安になってきた。
それはこの姿から一生元に戻らなかったらどうしようと思ったからだ。
そして何よりも私は子供扱いを受けるのが大嫌いなのだ。
昔は13歳で検事になりたての時は子供扱いされた事がよくあった。
その度に私は鞭を振ってきた。
19歳の今ですら私の事を子供扱いする人間はいるが、
少しずつ大人として認められ検事として認められていった私が、
何故今10年も戻ってしまったのだろう。
これが神様の悪戯だとしたら神様は意地悪だ。
せっかくスゴロクなどのゲームでゴール近くまでいったのにスタート地点まで戻された
感覚だった。
解決方法がなく今だけはこの姿を受け入れるしかない。
 
ふと私は目の前の本棚を見た。
上の方に今度怜待から貸してもらおうと思っていた資料があった。
次調べる件で怜待が扱った過去の事件が関係している可能性が高いため
その過去の資料がどうしても欲しかったのだ。
私は怜待が来るまでに資料を読もうと思い本棚に近づき資料を取ろうとした。
その時気づいた自分の背じゃあの資料まで届かない事に、
私はジャンプしたり背伸びしたりするが無力でしかなかった。
私が子供になったせいか元々大きな本棚が更に大きく聳え立っている気がした。
仕方ないこれは後で怜待に頼むとしよう。
その時だった、執務室の扉を叩く音が聞こえた。
明らかに時間的に怜待でないので私はソファの下に隠れた。
小さな場所でも子供なら隠れられるのでそこは子供の長所と言うべきなのだろう。
考えてみると怜待が執務室に誰も入れるなと言っていたはずなので隠れる事自体無駄だった気がした。
しかし私の予想を裏切り鍵を開け扉を開ける音が聞こえた。
 
「御剣検事!あれ御剣検事?」
 
ヒゲだった。
あの刑事の事だ、怜待が海外に行っている時ここの部屋の管理はヒゲに任されているので、
まるで自分の執務室の様に入ってきてしまったのだろう。
 
「おかしいっスね、本当は別の用事があってここに来て鍵が開いていたから入ってみたら誰もいないなんて!」
 
図星のようだった。
それにしても執務室をあの頼りないヒゲに任せる怜待の気も知れなかった。
そう思ったときヒゲがソファに近づいてきた。
まさかバレたのだろうか。
 
「やっぱソファはふかふかで気持ちいいっス!」
 
ソファに飛び込む音が聞こえて、
と言ってソファで昼寝を始めた。
ここに隠れた事が今となって後悔した。
ヒゲの顔は見れないがさぞ気持ちよさそうにしているのだろう。
私が椅子の下で必死に隠れている最中で、
今度その分をヒゲの給料から引いておく事にした。
 
「うん?そう言えば椅子の下に隠しておいた飴があったはずッス!」
 
なっ?私の背筋が急に寒くなった。
ヒゲがソファから立ち上がる音が大きく響く、
ヒゲが隙間からソファの下を見ると
 
「何事っスか!!!」
 
ヒゲが驚いて床に転がる。
私は素直にソファの下から出てきた。
 
「あの人とそっくりな子供ッスね......とにかく事情は知らないッスが、
 ここは御剣検事の執務室いや仕事をする場所ッス!」
 
いちいち言い直さなくても私には伝わっている。
子供扱いされた事に私は腹を立てる。
 
「とにかくお客様用の部屋があるッスから、そこに連れて行ってあげるッス。
 さぁこの刑事さんについて来るッス!」
 
ヒゲは子供に対する口調で話しかけてくる。
この時点で私は鞭を握り締めていた、
すると行き成りヒゲがソファに手を突っ込み手のひらを見せてこう言った。
 
「飴もあるッスからついて来たらあげるッス」
 
この手法は誘拐犯が子供をさらう時に使う手ではないのか。
しかしどちらにしても子供扱いされた事には変わりはない。
私は怒りで鞭を勢い良くヒゲに振った。
 
「ギャアアアアアアッス!!!!!!!!!!!!!!!」
 
悲鳴が執務室に響く。
その後連続で鞭を振り続けた。
ヒゲは吃驚して抵抗もできず、そのまま逃げていった。
 
 
 
私は溜息をついた。
ヒゲから受けた子供扱い、本棚の本が取れない。
この二つの事柄が元々不安だった私の心を更に不安にする。
私が子供の姿であれば生活は不便になるし、将来も不安になってくる。
永遠にこの姿だったらどうなるか考えただけでも恐ろしくなる。
私は不安と恐怖で涙を零すその時。
 
「冥、すまない少し遅れてしまった」
 
怜待が帰ってきた、本当なら安心できるはずなのだが、
涙を見られてしまった事で安心できなかった。
 
「冥泣いているのか?」
 
「貴方には関係ないわ!気にしないで頂戴!!」
 
私はキツイ言葉で怜待を突き放す。
私はそっぽを向いて涙を止めようとする。
しかし中々止まらない、心が不安で仕方ないのだ。
本当は怜待に助けてもらいたい気持ちで一杯だがプライドがそれを許さない。
でも不安と恐怖だけが頭を巡り頭が混乱する。
私は声では助けを求められず心で助けを求める。
誰か...................。
その時急に心が温かくなった気がした。
 
「冥不安なんだな、心配はない私が手を尽くして元の君に戻してみせる」
 
気がつくと私は怜待に抱きしめられていた。
心の助けがが聞こえたのだろうか、それは分からない。
ただ私の心から恐怖と不安は消え暖かい気持ちになった。
何時もならこんな事をされたらすぐ鞭を振るつもりでいたが、
私は今だけその考えを捨てて怜待に抱きしめて貰う事にした。
 
 
 
 
 
 
 
冥が落ち着いたので私は冥を開放した。
最初は鞭で殴られるかもしれないと思ったが、
目の前で泣いている彼女をそのまま見ているのが耐えられなかった。
冥は私を激しく突き放そうとするがそれは彼女のプライドの問題。
本当は助けを求めているそんな気がしたから私は彼女を抱きしめる事ができた。
冥は開放されこう言った。
 
「仕事場で抱きつくなんて検事としての自覚がないわね!
 そんなんだから私に勝てないのよ!」
 
一度も君に負けた覚えはないのだが...........。
相変わらずキツイ言葉で返すが彼女の本当に言いたい言葉は「有難う」なのだろう。
抱きしめられていて何も抵抗しなかったのがその証拠だ。
そして、何時もの元気が出てきた事に私は喜びを感じた。
小さな冥が感じた不安や恐怖これは冥には背負いきれない物だ。
しかし私が少しでも肩を貸してあげれば冥は楽になる。
キツイ言葉の裏が分かる私にしかそれはできないだろう。
 
抱きしめた時の約束を胸に、
私はこの件が終わるまで、この件が終わっても冥を支える事を決めた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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