太陽

太陽

その日私の胸の内には9割の不安と1割の期待で一杯だった。
自分で言うのもどうかと思うが綺麗な母譲りのセピア色の髪を解かし、
髪を整えた。
紹介が遅れてしまったが、私の名前は春川 藍。
14歳で今年中学3年生になる。
今日はその始業式だ。
では、最初の9割の不安の正体は何か。
それは、クラス替えは惜しい答だが、もっと大きな事だった。
その理由は半年前に遡る、私は半年前事故に遭い大怪我をした。
車に跳ねられたのだ、あの事を思い出すだけで背筋が凍り付く。
その事故のおかげで私は半年間入院する事になった。
なので私は半年学校に行けなかのだが、今日復帰できることになった。
9割の不安は事故に遭い半年学校に行けなかった私を新しいクラスの子が受け入れてくれるのか心配だったからである。
私は制服に着替え朝食を食べた後、学校に向かった。



事故が起きた通りを避けて少し遠回りをする。
裏道をを通るとそこには神社があった。
去年の元旦私はここでお参りをしたが、今年はできなかったので
私は賽銭として財布から10円を取り出し箱に入れる。
その後鈴を鳴らす、少しだけ騒がしい鈴の音が周りに響き渡った。
帰ろうとしたとき、神社にそびえ立つ大きな木が目に入った。
私はそっと木に手を当てる。
こうしていると不思議だが落ち着く。
不安な気持ちも少しだけ和らいでくる。
再び学校に向けて歩き出そうとすると、また私の中で不安な気持ちが蘇ってくる。
足取りが遅くなる、ここまで不安になるならずっとあのままでいたかった。
そう思った刹那だった。

「こんな所で何をしているの?」

不意に後ろから声が聞こえた。
私の学校と同じ制服を着た男子だった。
恐らく背的に同学年だろう、しかし私は目の前の男の子の顔を一度も見たことがなかった。

「お節介だったら悪いけど、とっても君不安な顔をしていたからさ心配になってね
 俺で良かったら何があったのか話してくれないか?」

そう言って彼は微笑んだ。

「私…….半年間学校を休んでいてそれで今の学校に馴染めるか心配で………」

私は言ってから気づいた。
初対面の人に私は何でこんな話をしているのだろう。
私が何故こんな事を初対面の人に話したか疑問を抱いていると。
彼はこう言った。

「大丈夫だよ、皆受け入れてくれるさ。
 もし受け入れて貰えなくても、


 今日から俺が君の友達だ___________________。」

その言葉は私の不安を消し去り、
期待と不安が逆転するほどの力のある言葉だった。

「おっと自己紹介を忘れていた。
 俺の名前は橙沢 陽太郎、これから宜しく!」

「春川 藍、宜しくね」

そのまま橙沢君と私は学校に登校した。


始業式が終わり学校から帰ってきた。
私は机に鞄を置き、そのままベッドに横になった。
彼の言っていたとおり皆私のことを受け入れてくれた。
それに、前のクラスで仲が良かった友人は私の事をずっと気にしていてくれたみたいで。
同じクラスになった事と復活した事を喜んでくれた。
しかし、私が今日一番印象に残ったことは、
神社で会った男の子の事だった。
彼の事を思い出す。

とっても君不安そうな顔していたから心配になってね_________。

今日から俺が君の友達だ_____________。

彼の言っていた言葉が頭から離れなかった。
そして不思議なこともあった。
何故私は初対面の人にあんな事が言えたのだろうか。
その謎に関して私は自分自身に問い続ける。
答が出ないまま次の日が来た。

それから橙沢君とは神社で良く会い一緒に登校することが多くなった。
私のことは春川と呼び捨てで呼んでくれている。
大体私が神社の前を通ると橙沢君が待っていた。
そんな日々が続いていた4月の終わり頃。
何時も通り二人で登校していた時の事だった。
神社の裏道を抜けると車道と歩道のある大きな道に出る。
車道、「車」と言うキーワードは私に恐怖を感じさせる言葉だった。
私は半年前車に跳ねられて入院することになったのだから。
横断歩道を渡るとき私は恐怖を感じながら渡る。
その時だった、私は躓いてバランスを崩した。
恐怖で緊張して渡ったせいだろう。
私は緊張すると大抵ドジを踏む、私は何度もそれによって失敗してきた。
転びそうになったときだった。

「大丈夫か!」

そう言って私のことを支えてくれた。
橙沢君の体がとても近く感じる。
私は少しドキドキしていた。

「もしかして俺間違って靴踏んで転ばせたか、なら本当にごめん」

私はその言葉をすぐに否定する。
橙沢君のせいではないし、だからと言って何も無いところで転んだと言うのは恥ずかしい。
そう思っていると、信号が点滅していた。

「やばいな、とにかく走らないとな………….」

そう言って私の腕を握って引っ張りそのまま横断歩道を渡る。
さっきのドキドキと異性と手を握った事から少しだけ顔が紅くなった。

「あっ!悪い急に手を握っちゃって」

橙沢君もその事に気づいたみたいだった。
私は急に橙沢君への意識が変わる。

「今度から横断歩道を渡るときは春川の事をちゃんと気にかけて渡る事にするよ
 また転びそうになったらすぐに支えてあげれる様にね」

その時私は気づいてしまった。
私が今まで謎だと思っていた事の答に。
あの時初対面だった橙沢君に話せたのは私が橙沢君にひとめ惚れしたからなのだ。
それに今までの事で私の中で橙沢君の存在は大きくなっていた。
この出来事によって私はそれに気づくことが出来た。
問題は橙沢君は私のことをどう思っているのだろうか。
もしかしたら私の気持ちなんて迷惑かもしれなかった。


それから何日か過ぎた頃。
祝日である昭和の日の前の日の事であった。
携帯から着信メロディが流れてくる。
私は机の上に置いた携帯電話を開く。
メールは橙沢君からだった。
内容は………….

「明日の夜公園で大事な話がある。
 5時に××公園に来てくれないか?」

その内容を見て気になるのは大事な話についてだ。
ひょっとすると向こうから告白。
なんて事があるわけがない。
私は現実に戻り大事な話がなんなのか考えたが、
何も思いつかず、次の日の夕方になった。

××公園は自然と遊具の沢山ある割と大きな公園だった。
ベンチに橙沢君は座っていた。
私は橙沢君の隣に座る。

「大事な話って何?」

私が聞くと橙沢君はこう答える。

「ちょっとね、俺は君に黙っていた事があったんだ。
 どうせ何時かはばれるんだし、今言っておこうと思ってね」

ばれる事、私にばれて不味い事があるのだろうか。
それはそれで本当に悲しい事だった。
彼は少しだけ考えて話す。

「確か君が半年間入院していたのは、
 交通事故だったよね、交通事故を起こした人物について何か聞いていないのかい」

交通事故を起こした人物。
私が覚えているのは車のカラーがグレーだった事だけだった。
起こした人物については母からも何も聞かされていなかった。
私は首を横に振る。
すると彼は少しだけ重々しく語った。

「交通事故を起こした人物の名前は橙沢 恭助。
 名字で分かるだろう、僕の父だ」

私はその事に驚きが隠せなかった。
交通事故を起こしたのは橙沢君の父だったなんて。

「親父は飲酒運転をしていて危なそうだったから、
 俺はあえて親父の車に乗せて貰わず、後ろをあの時歩いていた。
 前に人がいるのにそのままブレーキをかけずそのまま人を跳ねたときには驚いた。
 すぐに僕は救急車を呼んだ。
 それから俺は親父の代わりに春川家にお詫びの手紙を出したが、翌日ごみに捨てられていた。
 俺があの時一緒に車に乗っていれば、何とかできたかもしれない
 その思いで俺の心は一杯だった。
 だから退院してきた春川に何かしてあげられたらと思ったんだ。
 黙っていて悪かったな」

そう言うと橙沢君は黙ってしまった。
彼があの時私に声を掛けてくれたのは裏があったのか。
でも、私は橙沢君の事をこの話を聞いて腹も立てていないし、
とにかく私は私なりの考えを話す。

「別に私はそれで怒りもしないし、むしろ橙沢君の事優しいって思うよ。
 事故だって私がもっと注意してれば起こらなかったんだし、
 それに私にあの神社から一歩踏み出させてくれた事に私は感謝している。
 私は橙沢君の事を許すも何もお礼を言いたいぐらいなんだよ」

私がそう言って微笑むと、橙沢君は安心したようで、
私に笑顔を返してくれた。
橙沢君が勇気を持って私に大切な事を伝えたのだから。
私も大切なことを伝える事にした。

「あのね、橙沢君私も一つ大切な話して良いかな?
 最初、初めて貴方に会った時不思議と私の事情をすらすらと話せた。
 その時はただ不思議にしか思わなかったんだけど。
 二人で時を重ねるにつれて、分かった事があるの。
 橙沢君_____________。


 貴方の事が好きです______________________。」

言ってしまった、私は言ってから焦る。
初めて会った時と同じ様に私はすらすらと気持ちが話せて、
言ってから焦ってしまった。
彼はこう言った。

「今度改めて僕から言おうと思ってたのに先に言われるなんてね。
 僕が君に何かしてあげたかったのは、交通事故の事もあるけど、
 もっと大きな要因は君に一目惚れしたからだ。
 


なら今日から俺が君の恋人だな__________。」


今から思うと橙沢君は本当に凄い人だった。
私が言いにくい事をすらすら言わせてしまう雰囲気と言うものがある。
彼は太陽みたいな人だった。
暖かく優しく私の全てを包み込む。
すると、橙沢君は手を差し出してきた。

「恋人だったらさ、その証に手とか繋いでみようか」

私はにっこり頷き手と手を繋ぐ。
手を繋ぎながらベンチにずっと座っている。
夕焼けがオレンジや赤様々な色が混じって明るい景色が目に入る。
たとえ太陽が沈もうと、私の横にも素敵で暖かい太陽がいる。

これから私の事をずっと支えてくれる、
太陽が____________________。





続く